何もない所から29

新しい出会いは続いた。

翌週、いわき市でイッキさんの結婚式が盛大に開催された。

この日ばかりは仕事の事を忘れ、大学生の頃の様な気持ちで参加した。

 

イッキさんは式の中でお嫁さんに対してサプライズフリースタイルラップを披露していた。

 

昔、イッキさんのアパートで『いつか結婚式やる時まで俺がラッパーだったらサプライズフリースタイルラップを絶対に式の中でやりたい』と熱く語っていた事を思い出した。

 

二次会で同じテーブルにイッキさんの地元の方々がいらっしゃったので話しかけてみたら、イッキさんと一緒にラップグループを組んでいるDSさんとBOM君だった。

 

初対面ではあったけれど、お互い昔から知っている様な不思議な気持ちで乾杯した。

 

すると、イッキさんがテーブルにやって来てこう言った。

「おっ!ついに、こことそこが繋がったか!いやぁ、実は来年には子供も産まれる予定だし、しばらく音楽からは離れようかと思ってさ!だから、お前達がいつか俺が戻ってくるまで世界がひっくり返る様なクルーを組んで待っていて欲しい!」

 

クルーとはラップグループという意味合いだ。

 

この日、意気投合してお互いの連絡先やデモCDを交換して僕のラップグループとDSさんのラップグループの頭文字を合わせてDMCというラップクルーが誕生した。

 

仙台でもライブがしたい。

この頃から仙台でもライブをしたいと強く思う様になり、何もない休日は勇気を振り絞り仙台市内のヒップホップ系のショップにデモCDを持って伺ったりしていた。

そんな中、あるショップで出会いがあった。

 

店内には店員さんが1名と僕だけだった。

オーバーサイズ過ぎる服がたくさんあり、サイズ的に自分が着れそうなものはなかった。

ふと、店員さんを良く見ると3人組ヒップホップ・ユニット『夜光虫』のKUTTSさんだった。

 

僕の中で仙台のラッパーと言えばGAGLEと夜光虫だったので心の中で『うおー!』と叫んだ。
この年にリリースされたCD『RAP SOUND BURGER』もヘビロテしていた。

 

僕はオーバーサイズ過ぎる服と栓抜きの様なネックレスをチョイスしてレジへ向かった。

 

「夜光虫のKUTTSさんですか?」

 

KUTTSさん

「おう、そうだよ」

 

僕は心の中で『うおー!』と叫んだ。

うまく自己紹介出来なかったがデモCDをお渡ししてスキップしながら帰宅した。

 

そこから隔週で店にオーバーサイズ過ぎる服を買いに通った。

 


つづく