何もない所から28

2005年の秋は新しい出会いがたくさんあった。

ある日、ライブのため仕事終わりに仙台から電車で向かったいわき市のフリーズというクラブのエレベーターで声をかけられた。

 

「あれ?お前らD-Factorだろ?」

 

今までのいわき市にはいない雰囲気を持った方だった。

その後、フリーズで行われたイベントにその方は遊びに来ていた。

 

僕らの出番が近付きステージ横で待機していると、突如その方はステージに上がり、ライブをしていたラッパーにフリースタイルバトルを仕掛けた。

 

初めて見るマイクジャックだった。

 

僕はとても衝撃を受けると同時に次の自分達の出番でもマイクジャックされたらどうしようという不安がよぎった。

 

その方はマイクジャックしたままステージに1人佇んでこちらを見ていた。

 

タイムテーブル的には僕らの出番だ。

 

ショウゴ君

「え?あの人ずっとステージにいますけど、どうします?」

 

「フィーチャリングアーティストだと思って普通にライブを始めよう」

 

自分でも自分が何を言っているのか分からなかった。

 
ステージ上でその方は僕の真横に立っていた。
何となく顔はこちらに向いている気がしていたが、目を合わせたらマイクジャックされると思い、一切見なかった。

 

「恐い、恐いよ!」

 

ショウゴ君

「落ち着いてください!もしかしたら、僕らにしか見えてないのかもしれません!」

 

「それも怖いよ!」

 


こういう時は刺激してはいけない。
かと言って、完全に無視するわけにもいかない。
たまに首でリズムを取りながら近付いたり、離れたり、僕は何やってんだ。

 

そのまま僕らはマイクジャックされることなくライブ終了。

その方はずっとステージ上で最後まで僕らを観ていた。

 

その後、バーカウンター近くにいたその方に話しかけに行った。

その方はジンのロックにチュッパチャップスを浸しながら飲んでいた。

 

何よりマイクジャックを初めて見たので僕は興奮していた。

 

その方は最近いわきに戻って来たという。
名前は『鬼』と言っていた。

 

マイクジャックした理由は『同じクルーの仲間をDISする様な内容のフリースタイルラップをライブ前にフロアでしていたから』との事だった。

この頃、クラブのフロアで円陣を組みフリースタイルラップを大勢の前で披露する光景が良く見られていた。

 

この日から僕らの話題はもっぱら鬼さんの話となった。

 

 

つづく