何もない所から21

たった1日で学生から社会人。

卒業式の翌日の午前9時東京池袋。

目を腫らしたノースカントと待ち合わせして本社へ向かった。

まだ大学生活の延長線上にいるような、社会人になったという実感は無かった。

お互いぎこちないネクタイの結び目がまだ残る気持ちの迷いを表していた。

予定では4月いっぱいは池袋で営業研修を行った後に宮城県仙台市に配属されるとのことだった。

思えば1カ月以上福島県から離れるのも生まれて初めてのことだった。

そう言った意味でも不安と緊張があった。

 

ノースカント

「昨日の卒業式のあとみんな朝まで飲んだらしいよ」

 

「いいなぁ」

 

ノースカント

「なんで俺たちの会社は卒業式の翌日から研修なんだろ?俺たちしばらくは東北の地を踏むこと無いんだぜ?もっとゆっくりしたかったなぁ。」

 

エモーショナル&ホームシック気味のノースカントを尻目に研修会場には150人ほどの新卒同期が集まっていた。

 

全員がまだ学生の気分のままな気がした。

それが緊張を少し和らげてくれた。

 

研修を取りまとめる社員の方が言った。

「研修の場所は福島県です!」

 

東北で生まれ育ったノースカントから生まれて初めての「なんでやねん!」が出た。

 

ノースカント

「俺たちは昨日大学卒業して式のあとのパーティーを欠席して福島から今朝池袋に来たんだぜ!研修の場所が福島なら現地集合で良かったじゃねぇか!そしたら式のあとのパーティーも出席出来たよね?なんでやねん!しかも、10時に福島に向けて出発って池袋滞在時間1時間って!なんでやねん!」

 

確かに、ノースカントの言うことは一理ある。

そして、もっと驚いたのが研修場所が福島の僕の実家のめちゃくちゃ近くだった。



つづく