何もない所から18

塩ビ管スピーカーから音を出してみた。

 

「・・・めちゃくちゃ薄っぺらい音ですね」

 

ノースカント

「うるせぇ!これが大学生の限界だ!あんたがこの薄っぺらさをカバーする様な野太い声で発表とライブすればいいんだ!」

卒業研究をほぼノースカントに任せていた僕に文句を言う資格はそもそもなかった。

 

迎えた研究発表は奇跡的に【聴いた事のない薄い音】という謎のジャンルが評価され、なぜか研究室内では一番の高得点をたたき出した。

 

ノースカント

「薄い音を作る会社の面接受ければ良かったなぁ」

 

次は学食での公開ライブである。

 

そそくさと学食の隅にライブスペースを作り、セッティングしているとたまたま仕事が休みだったイッキさんが缶コーヒーの差し入れを持ってやって来た。

 

「わざわざありがとうございます!」

 

イッキさん

「久しぶりに学食のシヤケフライのオーロラソースが食べたくなってな」

 

即席のステージに立ち学食を見渡すと、あの日DJの先輩に怒られた席が目についた。

あれから約3年の時が過ぎていた。

 

ライブを始めるとそれなりに人だかりができた。

 

感極まり溢れてくる涙を必死にこらえて塩ビ管スピーカーで精一杯ライブした。

 

ノースカント

「すげぇライブよかったよ!これでやっと卒業研究終了だ!」

イッキさん

「相変わらずシヤケフライうまかった!やっぱりオーロラソースがアクセントだよな!」

 

いつか僕がめちゃくちゃ有名になって記念館とか建てらるレベルになった時に展示して欲しいとライブで使用した塩ビ管スピーカーを大学に寄贈した。

 

これで大学生として大学でやるべきことは全てやり遂げた。

 

その日の帰り道の夕焼けを今も覚えてる。

 

 

つづく