何もない所から17

取りあえず就職活動をしよう。

その日以降、僕ら3人は就職課の先生指導のもと模擬面接や合同企業説明会などに参加することとなった。

ただ何もやりたい仕事が無かった。
逆に言えば何でも良かったのかもしれない。

 

大学で理工学部に所属していたが、そこで学んだ事は将来理工系の職に就く可能性を削った。
自分にはこの分野は無理だと思った。

それはそれで良かったのかもしれないが、心の中に就職しなくても音楽で食べていくという謎の自信があった。

ただ、音楽だけですぐ生活出来るわけもなく、家族も含め大勢の方に説得され、就職をする事にした。

そこから何社か面接を受けにいった結果、ノースカントと一緒に受けた宮城県仙台市の会社から内定が出た。

何の会社か良く分からなかったがノースカントも内定が出たことと早く就職活動を終わらせて音楽活動に専念したかったこと、大学生活が終わりに近づいた事への焦りでノースカントとともにその会社に就職を決めた。

 

大学を卒業するためには。

就職先が取りあえず決まったが一安心してはいられない。

卒業研究を完成させて発表するという大学最後の試練が残っていた。

 

卒業研究の塩ビ管スピーカーはノースカントがほぼ1人で完成させていた。

僕にはその塩ビ管スピーカーを使用して『教授らに対しての研究発表』と『学食で食事中の生徒らに対してライブする』という大役があった。

 

「この塩ビ管スピーカーって制作過程で音出してみました?」

ノースカント
「いや、一度も音出してない」

「なぜ?」

ノースカント

「恐かったから」

 

「音、出るんですかね?」

ノースカント

「理論上は出るはず」

 


つづく