2002年、福島県いわき市。
「僕もラップしているので仲間に入れてもらえませんか?」
「その左腕のタトゥーなに?」
「歌詞が飛ばない様にマジックで描きました」
「お前、前にテレビでラップしてただろ。仲間にセルアウトはいらない。」
2011年、福島県いわき市。
「文系ラッパーの本領発揮か。」
「狐火ってラッパーが毎週新曲を動画サイトにアップしててヤバい。」
「しかも、全部福島の事を歌ってて、もしかしてコイツってあの時の?」
2012年。
「狐火って覚えてる?」
「あぁ、あのいつも1人だったダサいラッパー?」
「今年のサマソニに出るらしいよ」
2013年、東京代々木公園。
「今日、一番の歓声が上がってたよ。」
今を積み重ねて先に楽しみを置く。
まだまだ、やりたい事がたくさんある。
いつか結婚したり、子供が生まれたり、もし子供が女の子で思春期を迎えて嫌われたり、それを父親のリアルとして曲にしてさらに娘に嫌われてしまったり。
いつかその子も結婚する時が来たり、ここまでたくさんの出会いや別れがあったり。
奥さんを地方のライブに連れ回したり、歳を取っても変わらずワンカップさんやミルクティー君や観音さん達と安い居酒屋見つけて飲んだり。
話題も入れ歯や遠くなる耳の事だったり。
孫に会えたら、いつかの自分を重ねてみたり。
人生も終盤に差し掛かる頃には、看護婦さんの言ってる事が理解出来なくて悩んだり、ナースコールを握りしめたり。
だんだん体から自由が無くなるにつれて、同じ窓の外の景色を眺める毎日になると思う。
その景色にも飽き始めてきた頃。
きっと振り返ると思う、自由だった頃を。
何もなかった頃を。
でも、決して戻りたいなんて思わない。
これ以上の人生は無いのだから。
いつか母親が言った。
「これ見てみなさいよ。あなたの小さい頃の写真、ほとんど電車のつり革を握ってるの。まるでサラリーマンになる将来を暗示しているみたい。」
「でも、1枚だけマイクを持ってるポーズの写真もあったのよ。表情もどことなく今のあなたを見据えているみたい。」
2017.06.24 おわり
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この先のストーリーはまた何年後かに描きたいと思います。
狐火