12枚目のアルバム『33才のリアル』を10月にリリースしようと準備を進めていた。
ちょうどMOROHAが10月5日にアルバムをリリースするという情報をキャッチしたので、同じ日に設定した。
そして、MOROHAのアルバムジャケットが赤を基調としている事から、僕は黄色を基調としたジャケットを作成した。
例えば『炎』は周りは赤だが中心の色は黄色だから、そんな想いがあった。
さらに、帯にもMOROHAを意識した一文を入れた。
なぜ、そこまでするのか。
この時、MOROHAはすでに僕の手の届かない所にいた。
そして、僕のCDが通常並んでいるのはジャパニーズヒップホップコーナーだけど、MOROHAはそのコーナーにはいない。
色々なものを乗り越えて、遠くにいた。
姑息な手段だけれど、僕の様なワンマンレーベルが店頭で第一線のアーティストと一緒にCDを並べる為に、いかにしてお金をかけずにプロモーションが出来るか常に考えていた。
どれだけ面白い事が出来るか。
その為なら便乗出来るものは便乗する。
卑怯だと言われても、リリースは挑戦なのだから。
CDに無言のメッセージを込めた。
その対象はまずレコードショップの店員さんだ。
当日、僕のCDがレコードショップ店頭でどう展開されるのか。
賭けてみた。
そして、迎えたリリース日。
Hi-STANDARDが16年ぶりのシングルCDをゲリラリリースした。
話題はHi-STANDARD一色に染まってた。
輝きが違い過ぎた。
それでも、たくさんの同世代がレコードショップに長い列を作る姿を見て、希望が湧いた。
皆、手にHi-STANDARDのCDを持っていたが、自分のCDを持っている人がいないか確認しながら僕はジャパニーズヒップホップコーナーを目指した。
その途中、MOROHAのアルバムが大展開されていた。
そのMOROHAコーナーの中に僕のアルバムがちょこんとあった。
レコードショップに僕とMOROHAを恐らく昔から知っている意識の高い店員さんがいる。
いや、僕はいると信じていた。
それは、配信が主流になり始めている時代に、CDのリリースでしか味わう事の出来ない瞬間だった。
いつか、またMOROHAとお酒でも一緒に飲む事があれば笑ってこの日を振り返りたい。
「あの日、Hi-STANDARDはわざとMOROHAと狐火にリリース日を合わせて来たんじゃないか。俺達の事を恐れていたんじゃないか。」
みたいな話をしたい。