何もない所から武器を作る方法53

彼女は最後に「さようなら」じゃなくこう言った。

 

「今日、ライブでしょ?リハーサル始まっちゃうよ!しっかりやりな!」

 

昔、僕の音楽活動を応援してくれなかった彼女が僕に言った。

 

「私まで、あなたを応援したら、もし音楽が嫌になってしまった時に逃げ道がなくなるでしょ。」

 

 

 

 一歩、一歩、自分を確かめる様にライブ会場に向かった。

 

喪失感で膝から崩れ落ちそうだったが、自分と自分の意識を必死にステージに打ちつける様に地団駄を踏んだ。

 

 

 

なぜかこの年は春くらいまでいつも以上にライブがスケジュールにたくさん入っていた。

それが救いだったのかもしれない。

 

毎日はつまらなくなった。

 

けれど、ライブとアルバム制作の時だけは放心状態から解放された。

その時だけは元の自分に戻れた様な気がした。

 

この時期、なぜか地方のライブにやたら観音さんがついて来てくれた。

多分、彼なりの優しさだったのだと思う。

 

今まで、メガネをビールに入れたり。

iPhoneを取り皿と間違えたりと。

ちょっと、おっちょこちょいな一面もあった。

 

みんなは観音さんの事を悪魔みたいに思っているかもしれない。

確かに酔っ払って悪ノリが過ぎるところはあるかもしれない。

でも、この非道の限りを尽くして来た観音さんがこの時は「たまたま近くに旅行いこうと思ってたんでライブDJしますよ!交通費とかいらないっす!」と言ってついて来てくれた。

 

実はすごい良い奴。

 

 

ワンカップさんは居酒屋で僕に散々ダメ出しをして、アメとムチでこのあと何か励ましてくれるのかと思ったらそのまま寝てしまったり。

 

 

あの日、遠ざけたレーベルのメンバーであるミルクティー君とナカジマシゲタカ君も僕を飲みに誘ってくれた。

僕をまだ恨んでいるのか、なぜか2人ともずっとこの表情だった。

 

色々な人が僕を外に連れ出してくれた。

 

これまでプロフィールに『孤高』という言葉を使用して来た事が恥ずかしくなるくらい、僕は孤高ではなかった。

 

足取りは重いけれど、ここからまた。

ここからまた。