そして、2月、ワンダーボーイのドキュメンタリームービーが上映された。
実は昨年の秋に出演依頼が来て考えるふりして二つ返事でOKを出したのだ。
映画に出るのなんて初めてだったから、親戚とかに自慢した。
撮影当日、場所は三軒茶屋の中華店だった。
店内に入ると、PerfumeのMVで知られる関和亮監督(以下、関さん)。
今をときめく松居大悟監督(以下、松居さん)。
そして、Paranelさんらが居た。
緊張した。
飲みながらワンダーボーイとの思い出話をするという流れだった。
松居さん
「狐火は本当に器が小せぇ!」
Paranelさん
「狐火君さぁ、歌舞伎のメイクが絶対に似合うからやってみてよ!」
僕
「ワンダーボーイのドキュメンタリーでいきなり歌舞伎メイクの僕が登場して大丈夫ですかね?」
関さん
「」
僕
「僕がもし死んでしまった時は、今日ここにいる皆で同じ様にドキュメンタリームービー作ってくれますか?」
関さん
「」
Paranelさん
「」
松居さん
「」
そんな会話(撮影)が5時間続いた。
僕はそもそもワンダーボーイに直接会ったのは一度だけだったから。
どちらかというと、皆さんと同じ様に死後の存在の方が大きかった。
不思議と、なぜか、ほとんどワンダーボーイと関係ない話をしていた。
そして、映像が完成した。
まず、公開前に出演者達が自分のシーンをチェックするという確認作業に入った。
担当者に「何か気付いた事とか失言があったら遠慮なく言ってください」と言われDVDを受け取った。
部屋で1人、正座して再生ボタンを押した。
心臓が張り裂けそうな程にドキドキしていた。
映像がエンドロールを迎えた。
僕の記憶が確かであれば、中盤に2秒程、僕が出ていた気がする。
巻き戻してもう一度該当のシーンを見た。
2秒出てた。
僕は黙って、DVDを取り出し、担当者が言った言葉を思い出した。
「何か気付いた事とか失言があったら遠慮なく言ってください」
何かに気付く間もない2秒、これは失言する間を与えない2秒だ。
僕は「確認しました。問題ありませんでした。」と担当者に伝えた。
そう答えるしかなかった。
これが、ドキュメンタリーの世界だ。
そう自分に強く言い聞かせた。
これをきっかけに映画とかにも出て行こうと思っていた昨日の自分に手を振った。