横浜が近くなるにつれだんだん緊張してきた。
めちゃくちゃ恐い人だったらどうしよう。
僕の話がぬる過ぎて殴られたらどうしよう。
流石に世界チャンピオンに殴られたら入院どころじゃ済まないだろうな。
でも、世界チャンピオンに一般人が殴られる事はないから逆に光栄だと思うべきか。
その方がラッパーとして勲章にはなるのか。
いや、そうなのか。
等々、根拠のない不安が次から次にわいて来た。
待ち合わせ場所にいた八重樫さんはそんな僕の不安をよそに、めちゃくちゃ腰の低い謙虚な方だった。
そして、終始笑顔だった。
失礼かもしれないけれど、出会ってすぐわかった、何だか自分に似ている部分があると。
そこから色々な話をしていくうちに、本当に僕の曲を必要として聴いてくれた事が分かりとても嬉しかった。
ボクシングとラップ、リングとステージについてお互いの話をしたりした。
音楽は自分次第でまだまだ続けていけるものだと思う。
でも、ボクシングはどうだろうか。
僕が軽はずみに『継続』や『再起』という言葉を口に出せない世界な気がした。
ボクシング漫画『はじめの一歩』ではボクサーの平均年齢が25歳くらいだった気がした。
そんな話をしていると時間はあっという間に過ぎて行った。
それでも、別れ際に聞いてみた。
「再起ですか?」
八重樫さんは「ふふっ」と笑った。
その翌月、現役継続を発表していた。
これから、新しい挑戦をする自分はこの日、大きな勇気をもらった。
再起戦、応援に行こう。