アルバム『31才のリアル』リリース後、このくらいの時期からトラックメイカー兼ときどきライブDJをしてもらっている観音クリエイションさん(以下、観音さん)と良く飲む様になった。
人生で5本の指に入るくらい一緒にお酒を飲んだ人だと思う。
そんなに飲む必要ないのに飲んだ。
時には真剣な音楽の話をした。
しかし、飲み過ぎて翌日には忘れていた。
本当に何で今日集まったんだろうという様な何も中身のない話を山ほどした。
時にはお酒を飲み過ぎた観音さんに無理矢理テキーラ戦闘服に着替えさせられた事もあった。
そんな観音さんが酔った時に僕に言った。
「狐火さんが居なかったら東京がこんなに楽しい場所にならなかったです。」
嬉しかった。
そんなある日、事件は起きた。
確かこの日は神戸から神門君が東京に遊びに来るので皆で集まって飲もうみたいな感じだった。
僕と神門君は『西の神門、東の狐火』と仲間内で呼ばれていた。
それは、ポエトリーラップの代表格とかではなくてお酒が飲めるという意味合いだった。
思った通り、浴びる様に序盤から飲んだ。
案の定、みんなすぐ酔っ払った。
途中、神門君が考案したわけのわからないゲームでさらに酔っ払った。
僕も記憶が曖昧なまま楽しい時間が流れ気付けば時計の針が23時をまわろうとした頃だ。
観音さんが暴れ出した。
最初の犠牲者は梅酢くんだった。
梅酢くんは財布を観音さんに取られ中身を車道にばらまかれていた。
一言で言えばどうかしている。
梅酢くん
「うそだろ!!」
僕は遠目でそれを見ながら、バーカウンターで緑茶ハイを飲んでいた。
しばらくすると観音さんが僕の方へやって来て、僕の財布を取ろうとした。
僕の脳裏にある言葉が浮かんだ。
「狐火さんが居なかったら東京がこんなに楽しい場所にならなかったです。」
僕は悩んだ。
観音さんはきっと今まで誰にも注意されずに生きて来たんだ。
僕がどうこう言う事ではない。
ふと、車道の梅酢くんに目をやると、彼は泣いていた。
梅酢くん
「千円札がない!千円札がなくなった!」
梅酢くんの事はだいぶ昔から知っている。
梅酢くんにとって観音さんは先輩だし大御所トラックメイカーだから逆らう事は出来ない。
ここは僕が観音さんを止めるべきか。
いや、もう一人、止められる人がいる。
そう神門君だ。
だめだ、神門君は一周回って寝起きみたいになってた。
僕がやるしかない。
あの日、ワンカップさんからビンタをされて僕は変わったから観音さんも僕のビンタで変わるんじゃないか。
そう思った。
梅酢くん
「あれ?カードが一枚足りない!カードどこ!?」