何もない所から武器を作る方法34

そして、BBP当日。

BBPを目指して一緒にラップをしてきた仲間が誰もいない代々木公園に昼過ぎに到着した。

 

すると、朝まで渋谷で遊んでいた頃の友達やナカジマシゲタカ君、Fragmentの2人やParanelさん、そして、全国のビーボーイ達がたくさん「おめでとう」や「ライブ楽しみにしてます」といった言葉をくれて、皆がたくさんの缶ビールを奢ってくれた。

ただ、ミルクティー君だけはあの日の事を引きずっているのか顔を見せなかった。

 

僕は有難く缶ビールを飲みながら思った。

今は今で今日まで築いたものがある。

ここで僕がライブする事がイッキさんやDSさん、BOM君とやってきた事が間違っていなかったという事の証明に繋がる。

夢を叶えよう。

 

手元には缶ビールが6~7缶あった。

このブログを美談にしたいのなら、この缶ビールは皆のエールだ。

ぬるくなる前に飲もう。

そんな心境だった。

 

結果、ベロンベロンに酔っ払った。

それでも、ワンカップさんのビンタを思い出し、あの日よりは酔わずに自分を保った。

 

BBPのバックステージで水をガブガブ飲みながら酔いを覚ますのに必死だった。

 

ずっと追い続けた大舞台で、なぜこんなに酔っ払った。

またやってしまったでは今回ばかりは済まされない。

 

何か爪痕を残そう。

歌詞が飛ばないライブも大事だけれど、今日しか出来ないライブがある。

それは、武器を持たない代わりにガードもしない。

ノーガードで、ただ一瞬でお客さんの意識ごと刈り取る様なパンチラインがあれば。

 

ステージに立った。

 

僕が今日ここに立った時点でサマソニとBBPでライブしたラッパーはクレバだけじゃなくなった。

 

 

僕は小さい頃から会話のスピードが周りの人よりも遅く、声も特徴的だったから、良く周りからモノマネをされたり、からかわれる事が多かった。

そして、もともと小さなことでクヨクヨ考え込んでしまうネガティブな方だった。

それはコンプレックスだった。

 

だから、ラップをやりたいと思った時も、先輩から喋るスピードや声質がラップに向いていないから止めとけと言われた。

そんな声じゃカッコ悪いと。

 

でも、イッキさんはこう言った。

 

「そういう声の奴って周りにいないから逆に良いんじゃない。ヒップホップはコンプレックスが武器になる音楽だし。」

 

マイナスでしかないと思っていたコンプレックスがここでは唯一無二と言われ、足手まといだと思っていたネガティブ思考が突き刺さる武器になり、夢のまた夢だと思っていたステージに立っていた。

 

視界を埋めるたくさんの人達が手を挙げ、歓声をあげていた。