ライブが終わった。
そこにはそれまで受けた事のない拍手があった。
ステージからフロアに降りてからも色々な方に声をかけられ皆が口々に「刺さった」や「響いた」といった感想をくれた。
それは夢の様だった。
その日、表現したのはずっと昔から手の届く所にあって知っていたもので、それはとても弱々しく臆病で出来れば隠しておきたい感情だった。
それが僕を救ってくれた。
ポエトリーリーディングというジャンルを知るのはこれよりずっと後の事だった。
帰宅するとすぐにその日のライブでラップした内容を曲にした。
そして、動画サイト等に手当たり次第にアップロードした。
状況が変わり始めていた。
その日から僕はデモCDを作りイベントの主催者に配り始めた。
デモCDを渡す際には「5分間だけで良いのでライブをさせてください。」と必ず付け加えた。
当時全盛を迎えていたmixiやmyspace、モバゲーといったSNSも積極的に利用してとにかく出来る事を全てやった。
その結果、初めてライブのオファーを頂く事が出来た。
場所は池袋だった。
1人になって2度目のライブだった。
駅のホームでパックの「鬼ころし」を飲んでからライブハウスに向かった。
この日はまだ学生だったDJ SION君が僕のライブDJをしてくれたり、出演者に1horse君やSAG.MIC君もいた。
ただ僕の事は誰も知らなかった。
僕はまたライブが出来る事を噛みしめながらステージに立った。
前回のライブで会場を自分の空気に持って行く事の重要性を感じていたので、この日はライブを始める時にトラックを無音にして少し自分の身の上話をしてみた。
自分の中ではライブハウスを無音にするという事が大きな挑戦だった。
その挑戦への不安も隠す事なく全てを話してから曲に入っていった。
前回のライブ同様に皆が僕を受け入れてくれた。
「新しい」や「斬新」といった感想を頂き、まだまだ自分にはたくさんの可能性が残っている事を確信した。
今までルールに縛られ過ぎていた。
そもそも自分が憧れたヒップホップは他のどの音楽よりも自由なはずなのに。
この日から無音のトークから曲に入るという今の自分のライブ手法が始まった。
そして、ここからライブオファーが徐々に増え始めた。