僕の周りには、切っても切れない腐れ縁の様な方々が何人かいる。
その1人が活発で生意気な年下の上司(以下、ワタナベさん)だ。
実は上京してから今日まで関わっている方々の中では一番付き合いが長く、ファーストアルバムを池袋ディスクユニオンで発売日に購入してくれたりと会社で僕に一番最初に理解をしめしてくれた人でもある。
ワタナベさん自身も秘境祭というフェスの主催を行ったりしている。
そのワタナベさんが常に僕に音楽を続けるうえで待遇の良い仕事を紹介し続けてくれているお蔭で僕は常に仕事に困らず、音楽との両立が出来たと言っても過言ではない。
ワタナベさんは僕のスランプからの突破口となった『27才のリアル』に登場しただけではなく、色々な面でのキーマンなのだ。
2013年の年明け、ワタナベさんが僕がそれまで働いていた仕事よりも好待遇の仕事を紹介してくれた。
僕はそちらに転職しようと思った。
そちらの方が給料も良く音楽もやりやすいからだ。
それと、今の会社にとても嫌いな上司(以下、A氏)が居て、僕はA氏の悪口を中心としたアルバム『29才のリアル』の発売を3月に予定していた。
会社に辞める旨を伝え、退職まであと一週間と迫ったある日、僕の送別会が企画された。
その送別会の席で酔った勢いもあったし、どうせもう会わないからという気持ちもあって、隣の席に居たA氏に音楽活動をしている事を打ち明けた。
(僕は基本的に音楽活動をしている事は内緒で働いている。)
すると、A氏は深く考え込んだ後に目に涙を浮かべ、「自分も昔バンドをやっていて、メジャーデビューを目指していたが、結婚して子供も生まれたりもあって諦めて今の仕事をもう20年続けている。だから、気持ちがとてもわかる。応援する。」という話だった。
その後、送別会が終わるまで色々な話をして、意気投合した。
僕は複雑な気持ちだった。
だって、大嫌いだったから。
そして、迎えた最終出勤日。
A氏が僕の席にやって来た。
そこには、最新アルバムを含む7枚の僕のCDがあった。
A氏
「サインしてくれよ。」
嘘だろ。
僕は嬉しい反面、動揺した。
A氏の悪口を言っている最新アルバム『29才のリアル』もある。
しかも、封が切ってある。
僕はファーストアルバムから順にサインを描きながら、頼むからまだ最新アルバムは聴いてません様にと願った。
最後の1枚にサインを描き終わるとA氏が言った。
「最新アルバムの28才のリアルっていう曲って出てくる地名とか時期とかからして俺の事歌ってんの?」
僕
「あぁぁぁああぁぁぁ、いや、あの頃は、、、」
A氏
「人間不信になるよ。まぁ、いいや、いつかお前が有名になった時に28才のリアルの悪口は俺に対してだぞって周りに自慢するよ。そして、29才のリアルもこの職場の事だよね?」
僕
「」
A氏
「悪口ばっかり曲にしやがって、いつかお前に弁護士が付くくらい売れた時に訴えてやるから覚悟しとけ。ただそれまでは一生懸命に頑張りな。だから、次に会う場所は法廷だな。」
僕
「いや、その前にライブ会場に来てください。」