何もない所から武器を作る方法11

ふと、我に返り叫んだ。

「ミルクティー君!危ない!」

 

もう、はねられた後だった。

 

今日まで自分なんかを応援してついて来てくれてありがとう。

楽曲制作がうまく行かない苛立ちをぶつけてしまいごめんなさい。

一緒にレーベルを立ち上げてくれてありがとう。

そんな思いや後悔が一瞬交錯した。

 

こんな時、人はどうして良いかわからず頭で考えずにいつもの習慣を実行する事が出来ると何かで読んだ事があった。

僕がそれだった。

まず、ツイッターで今起きた出来事を報告した。

ツイートボタンを押した瞬間、血だらけで倒れているミルクティー君と目が合った。

 

ちゃんと生きてた。

 

ミルクティー君は車が衝突する瞬間に後ろにジャンプして、さらに回転受け身を取ったらしく(後日談)、血だらけなのにボロボロになったビニール傘の心配をするほど意識がはっきりしていた。

 

本当に良かった。

 

この日はミルクティー君にライブDJをしてもらう予定だったが、ミルクティー君はそのまま病院に運ばれてしまった。

全身の打撲もあるだろうからしばらくは入院だろうと思った。

 

でも、あの時ミルクティー君が僕をかばっていなかったら、と考えると今でも恐くなる。

僕は回転受け身なんて取れないだろうし。

本当にありがとうと言いたい。

 

僕はその後ライブまで時間があったので1人ホテルに戻り、温泉に入り、ロビーで湯上りの缶ビールを飲みながらミルクティー君を心配していた。

そしたら、包帯だらけのミルクティー君がホテルに戻って来た。

そして、僕を見てこう言った。

 

「あんた良くこの状況でビール飲めるな!しかも、この後ライブなのに浴衣まで着やがって!」

 

彼は僕に苛立っていた。

 

彼は続けてこう言った。

 

「ひかれた直後、あんたの方を見たらケータイいじってたから救急車呼んでくれたのかと思ったらツイートしてましたよね?【ミルクティー、ひかれたなう】じゃないっすよ!どういう感覚してるんですか!人として!人としてですよ!」

 

10分間くらいだろうか、僕は怒られ続けたが、こうして元気なミルクティー君にまた会えて良かった。

そして、包帯だらけの体でライブDJをしてくれて僕よりお客さんから拍手を浴びていた。

 

その後、怪我をしたミルクティー君は相手の保険でしばらく病院に通う生活となった。

僕の右腕にも車がかすった跡が残っていたので事故の保険が適用されるのでは?と思ったら、後日ミルクティー君が僕をかばう為に突き飛ばした際に残った爪の跡だと判明した。

痛い。

 

 

この事故直後にまた曲が作れるようになったとかではないけれど、レーベルとしての団結力というか、色々なものに自信を無くしかけていた自分がレーベルのトップとしても、1人のラッパーとしても、どうにかこのスランプを抜け出さなければならないと今までよりも強く思えるようになった。

それは誰かのやり方ではなくて、自分のやり方で。